大学オンライン講義あれこれ(田中宏弁護士)
大学・法科大学院の運営や学生の生活にも、コロナ禍は大きく影響している。
2017年度から、中央大学の法職講座で民法の講義を担当している。2019年度までは、平日夜間に、大教室2室を主会場・副会場として使用し、400人くらいの受講者を相手に対面で行っていた。その当時から、学生からオンライン授業のリクエストはあった。なにせ、中央大学は、校地が都心から離れていて、21時30分に講義を終えると、遠方から通学している学生は帰宅が終電近くになる。講義の延長などはもってのほかであった。
この講義は、正規の法学部の講義ではなく、「課外」であるから、運営方法は、ある程度柔軟に対応できる。それでも講義の中継や録画配信は技術的に無理だろうなと思っていたし、大学側も「検討中」ということであった(法学部が都心に移転すれば解消される問題でもあるし)。
ところが、コロナ禍に直面すると、数ヶ月前まで「無理」だったことが、次々と実現していく。オンライン会議システムが大学に採り入れられ、教員は方式の違いこそあれ、自らの講義の配信を余儀なくされた。私の民法の講義は、課外であったことが幸いし、事務方の手厚いサポートを受け、無人の部屋で録画した講義をオンデマンド配信し、学生からの質問は、専用のオンラインフォームから投稿してもらい、全てに回答する方式をとった。
この講義は、受講生が多いことから、対面に戻せず、現在も事前収録映像のオンデマンド配信方式が続いている。学生の反応を見ながら話せないのが、ちょっともどかしいが、基礎知識を伝授するための講義であるため、一方的な話を核として、個別の質問に対応する方法も悪くない。そして、本音を言うと、事前収録であるから終了時刻に神経を使う必要が無いのは助かる。
また、オンライン講義にした結果、これまで通学の時間がなかった通信教育課程の履修者が参加してくれて、そのつながりで、通信教育部生のグループ対象の学習会(全てオンライン講義)も始めた。昨年度は民法の財産法を一通り概観し、今年度は民法の家族法を取り扱っている。家族法は法科大学院で数年間講義したが、すこしブランクがあるので、若干手探りをしつつ進めている。
難儀なのは少人数での演習である。「課外」の演習については、もともと夜間実施ということもあり、課題提出-返却-解説・講評をすべてオンラインで行った。ところが、学部や法科大学院の正規講義は、対面を基本としつつオンライン参加を拒まないかたちで行えというお達し。要するに、教員が教室で演習を行いながら、オンライン参加の学生との中継技術者もやれということである(非常勤の教員にアシスタントが付くなど夢物語)。教室にPCや音響装置類が全てセットされている教室はまだしも、設備のない教室では、自前PCを有線LANに接続し(学内無線LANは遅すぎて中断する)、備品のスピーカーマイクとカメラを繋ぎ、恐る恐る会議システムに接続してテストするという「儀式」を毎回余儀なくされ、ただでさえ少ない授業時間が無駄に削られる。
いっそのことオンラインか対面かに統一してくれると楽なのだが、「対面での演習が楽しみなので」という学生の希望をきくと、そう無碍なこともできないし、機材については「慣れ」が解決してくれることもある。
加えて、演習参加の学生との懇親会もできない(手足を縛るような行動規範があって、事実上不可能)ので、対話を深めることもできず、フラストレーションがたまる。画面を通じてしか交流がなかった学生がいるなど、かつては考えられなかったことである。もっとも、これは教員側の「満たされない気持」であって、学生にとっては煩わしくなくて良いのかもしれない。
中央大学の法学部は、2023年度から茗荷谷に移転するので、遠隔地という負担はなくなる。移転後の講義がどうなるのかは、自分がどう関わるのかも含めて、まだ見えないところもあるが、今後も機会が与えられるならば、対面講義の良さを維持しつつ、オンラインゆえの合理性も採り入れて行ければと考えている。