口腔がんに対する歯科医師の対応(玉伊吹弁護士)
先日、歯科医師を対象とした口腔がんのリスクマネジメントに関する講演を行う機会がありましたので、今回はそのことに少し触れたいと思います。
1 口腔がんについて
口腔がんは、口の中に生ずるがんの総称であり、舌がん、歯肉がん、口腔底がん、頬粘膜がん等の分類があります。
口腔がんは、日本人が罹患するがん全体のうちの数%と言われており、希少がんといえます。
しかし、口腔がんの罹患者数は、年々増加傾向にあります。加えて、口腔がんは、ある程度進行してしまってから発見されるケースも少なくなく、その結果、死亡率も決して低くはありません(進行がんの場合の5年生存率は50%程度とも言われています)。
また、仮に死亡を回避できたとしても、食事や会話などに支障が生じ、QOLが低下することも少なくありません。
ですから、口腔がんは、希少がんだとはいえ、その早期発見及び早期治療がとても重要になります。
2 口腔がんに関し歯科医師が負う責任ついて
歯科医師の一般的業務は、口の中とはいえ、歯の治療や矯正が中心ですから、口腔がんとは無関係であるかのように思われます。
実際、口腔がんに関する医学的知見を必ずしも十分に有していないことなどを理由として、口腔がんに関する積極的な診療や検診を行わない歯科医師も存在するようです。
しかし、「歯科医業」(歯科医師法17条)とは、法律上明確な定義はないものの、単に歯の治療や矯正に関わる診療だけでなく、舌や口腔粘膜などの口腔領域に関わるに診療も含むと考えられています。
したがって、歯科医師は、口腔領域の治療全般を行うことが職責ですから、仮に口腔がんの見逃し等があった場合には、法律上の過失があるとして、法的責任を負う可能性があります。
歯科医師が責任を負う可能性がある典型的な事例としては、ある病変が実際には口腔がんであったにも関わらず、それに気が付くことなく、例えば口内炎だと考えて治療を継続していたことから、口腔がんの発見及び治療が遅くれてしまい、その結果として死に至ってしまったというものがあります。
3 歯科医師がとるべき対応について
歯科医師としては、何よりも患者の生命やQOL維持の利益を考え、口腔がんの早期発見及び早期治療という積極的な対応をすることが肝要です。
具体的には、①口腔内は容易に視診、触診ができる領域ですから、まずは口腔内を視診、触診により確認する、②必要に応じて蛍光観察装置といった口腔がん発見のための補助的装置等を用いて確認する、③視診、触診等の結果、口腔がん又はその疑いがあることを発見した場合には、その旨を患者に対して十分に説明した上で、高次医療機関への受診を勧めたり、同医療機関への転送措置をとるといった対応が求められます。
4 今後期待される施策について
口腔がんの早期発見及び早期治療の重要性についての啓発活動はもちろんですが、地方自治体による口腔がん検診の実施促進、さらには口腔がん検診を診療報酬の対象とするといった口腔がんを早期発見及び早期治療するための施策を積極的に行っていく必要があるように思われます。
以上